『子年』 ~信は能く一切の仏を示現せしむ~
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◆はじめに
今年は子年です。十二支の一番目の子には動物の鼠を配しています。 鼠といえば繁殖が盛んで、農作物、食料品を食べたり、家財を破損することも多い困り者です。 その一方、大黒様の使いとして福を呼ぶと言われたり、昔話や漫画、アニメなどのキャラクターとして 登場するなど親しまれています。
◆「ねずみ経」
「ねずみ経」という昔話があります。 むかしむかし、ある山の中に、一人のおばあさんが住んでいました。ある晩、一人の旅の僧侶がやって来て言いました。 「道に迷って、困っています。どうか一晩、泊めてください」 「ああ、いいですとも。どうぞお上がりください」 信心深いおばあさんは親切にもてなしました。僧がお礼に何かと尋ねますと、おばあさんは 「それでは、お経の言葉を教えてください」。 ところがこの僧はニセモノで、お経の言葉を知りませんでした。 困った僧はさて、なんと言おうかと考えました。その時、目の前の壁の穴から、ネズミが一匹顔を出しました。 そのネズミのようすを、経文のように唱えることにしました。 「♪おんちょろちょろ、出てこられそうろう」 「♪おんちょろちょろ、穴のぞきそうろう」 「♪おんちょろちょろ、なにやらささやきもうされそうろう」 大きな声で言うと、ネズミはビックリして穴から逃げ出しました。そこで 「♪おんちょろちょろ、出ていかれそうろう」。 おばあさんはすっかり喜んで、それから毎朝毎晩、お経を唱えました。 ある晩のこと、泥棒が、こっそりおばあさんの家に忍び込みました。 ちょうど、おばあさんが仏だんの前でお経をあげている時でした。 泥棒は、おばあさんのお経を聞いて、ビックリしました。おばあさんが何もかもお見通しだと勘違いして、あわてて逃げて行きました。 それからもおばあさんは、ずっと幸せに暮らしましたとさ。
◆おわりに
お経はニセモノでも、おばあさんの信心はホンモノでした。 『華厳経』というお経の中に「信は能く一切の仏を示現せしむ」とあります。 仏さまを信じて念ずれば仏さまがそこに現れると云うのです。 一心にお経をお唱えするおばあさんは、すでに仏さまと一つになっていたのです。 どうか今年も、仏さまと共にありますように。