法話

【落ち葉の暮らし】 ~焚くほどは風がもてくる落ち葉かな~

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◆はじめに

「垣根の垣根の曲がり角、焚き火だ焚き火だ、落ち葉たき♪」と童謡にもありますように落ち葉の舞い散る季節になりました。 昔はよく落ち葉を集めて、焚き火で暖を取り、焼き芋をして食べた思い出があります。


◆良寛さま

落ち葉と言えば江戸時代の僧、良寛様にこんな歌があります。

「焚くほどは 風がもてくる 落ち葉かな」

倉敷に玉島と言うところがございます。
その玉島にある禅宗のお寺、円通寺で良寛様は若い時分に長い間ご修行なさいましたので、当地にも非常に所縁の深い方であります。 たいそう村人たちに慕われ、また子供たちと仲良く遊んでおりましたようで、いろんな昔話が残っております。


◆荒れ放題の庭

ある時、越後長岡のお殿様が、良寛様の噂を耳にして是非とも教えを請いたいものだと思いました。 早速、ご家来に良寛様にお城にお出でいただくように命じました。

ご家来は早速、良寛様の庵を訪ねます。
良寛様は山の中に住んでおられまして、大層質素な暮らしをなさっておられました。
ご家来が訪れたとき、良寛様はお留守でありまして、しばらく庵で帰ってこられるのを待つことにしました。 しかし待てど暮らせどなかなかお戻りにならない。 ぼんやりと庭先を眺めておりますと、草がボーボーと生い茂って荒れ放題で足を踏み入れる隙間もない。 これでは良寛様お困りであろうと思いまして、待っている間にお庭をきれいに片付けて差し上げようとこう思いました。 草をむしり葉っぱを取りまして、庭をきれいに掃除をいたしました。すっかり見違えたお庭を見て良寛様が、きっと喜んでくださるだろうと思っていました。

しばらくして、良寛様が戻られました。
きれいになった庭を見てびっくり。そしてご家来に向かって

「昨日までは夜になると虫たちが賑やかに歌を歌い、音楽を奏でて、私の心を和ませてくれたのに、 こんなにきれいになってしまっては、もう虫も寄り付かない。随分と寂しいことだ」とがっかりしておっしゃいました。
ご家来は何も言えずに、良寛様の所から帰ってきました。


◆落ち葉の暮らし

しばらくして、お殿様が再びご家来に「良寛様はまだお見えにならんのか、長岡に来てくださるならば、 立派なお寺を立ててお迎えするものを早くお願いして参れ」とおっしゃいました。 そこで、ご家来は再び良寛様の元へ参りました。ご家来は良寛様にお殿様のお言葉を伝えて、どうかお城にお越しくださいとお願いしました。
すると良寛様は、何もおっしゃらずに紙にさらさらと歌をしたためて、それをご家来に渡しました。
見るとそこには「焚くほどは 風がもてくる 落ち葉かな」と書かれておりました。

良寛様は、自分は今の暮らしに満足しています。立派なお寺など私には不要なもの。
寒ければ風が落ち葉を運んできて、それで暖を取ることができる。
必要なものはここにあって何も不足なものはないと言う心境を歌に詠みました。


◆おわりに

この頃はニュースを見ましても、人のものを奪ったり、人を傷つけたり、そういった事件を度々目にいたします。
自分に足らないもの欲しいものがあれば、人を傷つけてでも奪うという大変恐ろしい心であります。

良寛様は外へ外へ求めるのではなく、自分のところに必要なもの、素晴らしいものはちゃんとある、満たされているんだと言うことをご自分の暮らしによって体現しておられます。

哲学者、ニーチェの言葉にも「足元を掘れ、そこに泉あり」という言葉があります。
大切なもの素晴らしいものは、自分のところにちゃんある。他に求めるばかりではなく、自分をよく見つめて、自分の中にある素晴らしいもの、自分の周りの人や物を大切にしていくことが良寛様のそして仏の教えなのだと思います。